デザインを見たとき、人はそんな言葉を口にすることがあります。
でも、その「なんか」は偶然ではありません。
見る人に「なんかいい」と感じさせるために、緻密なロジックとテクニックで「狙って」つくる。
株式会社common graphic代表・澤田俊輔さんは、そう言い切ります。ロゴ、会社案内、採用パンフレット、Webサイト、展示会ブース。手掛ける媒体はさまざまですが、根底にある考え方は変わりません。
デザインとは、見た目を整えることではなく、関わる人すべてを前向きにするためのもの。
その思想が、common graphicという会社の原点になっています。
「なんかいい」を狙ってつくる。
「きれいですね。」より、「なんかいいですね。」と言われる方がうれしい。澤田さんはそう話します。
「なんかいいと思うデザインは、本当にいいデザインだと思うんです、僕は。ただ、作り手が『なんかいいから、これでいいだろう』と思ってしまうのは絶対にダメで。なんかいいと思わせるために、狙って作る。制作するときは、ずっとそれを考えています。」
色づかい、文字の大きさ、余白、写真の配置、ページをめくる流れ。細部まで積み重ねられた理由があるからこそ、人は思わず惹きつけられます。感覚だけでも、論理だけでもない。見る人の感覚を動かすために、ロジックとテクニックを積み重ねる。その先に生まれる感覚を、澤田さんは狙ってつくっています。
デザインとは、人を前向きにすること。
独立にあたり、社名を考える中で、澤田さんは「どんなデザインを、自分はつくっていきたいのか。」という問いに改めて向き合いました。
「communicationを上げるだけでなく、motivationも上げるもの。その2つを叶えなければいけない。それがいいデザインの定義だと、自分の中で決めたんです。」
二つの言葉の頭文字と語尾を組み合わせて、「common」。そこにはもう一つの思いも重ねています。
「顧問弁護士や顧問税理士がいるように、企業の顧問デザイナーになりたいと思ったんです。」
一つの制作物をつくって終わるのではなく、長く寄り添う存在でありたい。その考え方は、独立から今まで変わっていません。
見る人の心を動かすデザインを意識してつくることが、すごく大事だと言う。
ロゴは、最小単位の最大コミュニケーションツール。
数あるデザインの中でも、澤田さんが特別な存在だと語るのがロゴです。
「ロゴは、デザインの中で最強だと思っていて。一番最小単位だけど、最大のコミュニケーションツールです。もしも『新聞15段の広告を作るとして、もし1要素だけしか入れられない場合何を入れますか?』と聞かれたら、僕なら絶対にロゴだと答えます。だから、ロゴを極めないといけないと思ったんです。」
このこだわりは、独立前のある出来事から始まっています。自分の名前だけで応募したロゴデザインのコンペで、全国4位に入ったときのことです。
「あ、自分、ロゴが得意かもしれないと思って。それから、かなりロゴを勉強したんです。」
名刺にも、会社案内にも、Webサイトにも、看板にも使われ、何十年にもわたって受け継がれていく。最も小さなデザインでありながら、最も長く、最も広く使われるもの。だからロゴは、澤田さんにとって「最小単位の最大コミュニケーションツール」なのです。
デザインだけでなく、コンセプトや言葉にもとことんこだわる。それが、澤田さんの流儀だ。
思想の原点は、レイアウトだった。
今の考え方は、一朝一夕に生まれたものではありません。大学卒業後、澤田さんが最初に勤めたのは釣り新聞を発行する会社でした。ある日、上司にあたる編集長が紙面をレイアウトする姿を目にします。
「普段はほとんど手を動かさない編集長が、見開きのセンターページをレイアウトしたんです。原稿用紙にはマス目があるのに、それを無視して、真ん中に人物をどんと置いて。写真も切り抜いて、それが誌面上ですごく生き生きしていて。自分も、これがやりたいと思ったんです。」
「レイアウトって、すごい。」その瞬間、仕事を見る目が変わりました。その後に入った広告制作会社では、限られたスペースの中で何を伝えるか、どこから読んでもらうかを徹底して学びました。
「情報の、何が大事なのかという優劣を、身につけられたかなと思います。」
さらに、BtoB企業のプロモーションを手掛ける制作会社へ移ります。
「BtoBのデザインは、正直分かりづらいというか。専門的な人しか見ない感じだったんです。自分自身が説明書を見ても分からないから、分かるようにデザインしないといけない。」
複雑なものを、分かりやすく。伝わりにくいものを、伝わる形に。デザインとは人の心を動かすためのものだという考え方は、この頃に少しずつ形になっていきました。
人生に、価値と彩りを。
独立前、ある会社の会社案内を制作したときのこと。完成した冊子を手にした社員が家に持ち帰って家族に見せたところ、「お父さんの会社って、すごいね。」と子供に褒められたそうです。
「そのときに、本当にやりたかったことが実現できたと思ったんです。」
自分がつくったものが、誰かを誇らしい気持ちにする。デザインは、印刷物をつくる仕事ではなく、人の気持ちを動かす仕事なんだと感じた瞬間でした。
しかし、その後、澤田さんが一度、デザインをする意味を見失いかけたことがあります。新型コロナウイルスの感染拡大で、街から人が消えた頃のことです。
「リモートワークになって、一緒にやっていたメンバーとも会えなくなって。すごく孤独を感じて。何のために自分はデザインをやっているんだろうとまで考えるようになって。」
そのとき浮かんできたのは、シンプルな思いでした。
「もう、笑顔を作るためのデザインをしたいと。お客さんはもちろん、お客さんのお客さんも、自分たちが作っているメンバーも。デザインを通じて笑顔を作っていきたいと、改めて思ったんです。」
だから、人も会社も前向きにしたい。社員が自分の会社を好きになる。お客様がその会社を好きになる。デザインを通して、人生に少しだけ価値と彩りを添える。それが、澤田さんの考える「いいデザイン」です。
「なんかいい。」その一言の裏側には、ロジックがあります。想いがあります。そして、人を前向きにしたいという、ぶれない思想があります。
Editor's Note
取材を通して印象に残ったのは、澤田さんが終始「デザイン」ではなく「人」の話をされていたことでした。「なんかいい」を狙ってつくること。ロゴを「最小単位の最大コミュニケーションツール」と捉えること。それらはデザインの技法である以上に、人や会社を前向きにするための考え方でした。制作物を納品することがゴールではなく、その会社で働く人が誇りを持ち、関わる人が前向きになること。その積み重ねが、common graphicという社名に込められた想いなのだと思います。
Profile
澤田 俊輔
株式会社common graphic 代表 / グラフィックデザイナー
大阪の大学を卒業後、釣り新聞を作る会社に勤めたことをきっかけにグラフィックデザインの世界へ。その後、複数の広告制作会社で経験を積み、独立して株式会社common graphicを設立。企業のロゴ、会社案内、Webサイト、展示会ブースデザインなど幅広いクリエイティブを手掛ける。デザインを通じて関わる人すべてを前向きにする仕事を続けている。