ジャンルを問わず、どんな撮影にも誠実に向き合うフォトグラファー・金田吉弘さん。
実はその原点は、プロミュージシャンとして活動していた若き日にありました。
ギターを手放し、ゼロから写真の世界へ。
一度決めた道を信じて歩き続け、今では多くの企業や制作会社から信頼を集めています。
その人柄の奥には、一本筋の通った覚悟がありました。
「写真って、こんな仕事なんだ。」
高校時代は薬剤師や獣医を目指していました。ところが受験を控えた夏、髄膜炎を患い、一カ月半の入院生活を送ることになります。その出来事をきっかけに進路は変わり、大学ではギターに没頭していました。
ライブハウスで演奏し、スタジオミュージシャンとして活動する日々。卒業後、音楽だけで生活できるほど仕事も増え、プロとして歩んでいました。
そんなある日、結婚式で上映するスライド映像の編集を手伝うことになります。最初は編集だけ。写真を撮影したことはありませんでした。ところが撮影スタッフが足りず、一眼レフを渡されます。
「ちょっと撮ってみて。」
その一日が、人生を変えました。撮った写真を見て喜んでくれる人がいる。誰かの人生の節目に立ち会い、その瞬間を残せる仕事がある。
「写真って、こんな仕事なんだ。」
そう思ったと言います。
飾らないひと言ひと言に、写真への強い想いがにじむ。
ギターをすべて売った。
もっと写真を学びたい。そう思い、プロカメラマンのアシスタント募集を探し、自ら門を叩きました。当時はまだ音楽の仕事も続けていました。けれど、中途半端にはしたくなかった。
写真で生きていく。そう決めたとき、ギターをすべて手放し、そのお金でカメラ機材を購入しました。
「退路を断ちたいという思いもありました。」
その覚悟があったからこそ、目の前の仕事に全力で向き合えたと振り返ります。
作業机の壁にもさりげなく家族の写真が。
道具の扱い方一つとっても、その人の仕事が出る。
どんな撮影も、同じ熱量で。
「30歳まではアシスタントとして頑張ろう。」そう決めて、撮影技術だけでなく、現場での立ち居振る舞いやクライアントとの向き合い方を学び続けました。独立後は、ある企業で映像部門を任されるなど、さまざまな経験を積み、紆余曲折を経て、現在のstudio kdotを設立しました。
もちろん、最初から順調だったわけではありません。修学旅行の同行撮影。雑誌のカット撮影。目の前にある仕事を一つひとつ積み重ねながら、少しずつ信頼を築いてきました。
現在、携わる仕事は実に幅広く、家族撮影、企業広告、商品撮影、タレント・モデル撮影、ブライダルなど。「何でも撮ります。」と笑います。でも、それは「何でもこなす」という意味ではありません。
人物撮影だから力が入る。商品撮影だから気を抜く。そんなことは、一度も考えたことがないそうです。
企業広告なら、その企業らしさを。
料理写真なら、おいしさを。
家族写真なら、その日しかない時間を。
被写体は変わっても、向き合い方は変わらない。どんな撮影でも、どんなお客様でも、期待以上を返したい。そのスタンスは、写真の世界へ飛び込んだ頃からずっと変わっていません。だからこそ、「金田さんなら安心して任せられる。」そんな信頼を、一つひとつ積み重ねてきたのでしょう。
いつか、「写真館」を開きたい。
将来の夢を尋ねると、表情が柔らかくなりました。「いつか写真館をやりたいんですよ。」でも、それは記念日に一度だけ写真を撮るような場所ではありません。
一年に一回でもいい。毎年、その家族が帰ってきてくれる場所。子どもが成長し、成人し、結婚し、また新しい家族を連れて帰ってくる。そんなふうに、人との縁が続いていく写真館をつくりたい。
「今年もお願いします。」
そんな何気ない一言を交わせる関係が、ずっと続いていく。その積み重ねこそが、金田さんの思い描く写真館なのだそうです。
家族を撮り続ける理由。
金田さんは、ご自身の家族の日常も撮り続けています。何気ない休日。子どもの笑顔。家族で過ごす時間。
「自分もいつ何があるか分からないじゃないですか。」
自分が見ていた景色を、子どもに残しておきたい。父親がどんな目線で家族を見つめ、どんな毎日を大切にしていたのか。写真なら、それを残すことができます。だから仕事だけではなく、自分自身の人生もシャッターに収め続けています。
金田さんの家族写真には、父から見た風景が広がっている。
編集後記
プロミュージシャンからカメラマンへ。ギターを手放し、新しい世界へ飛び込んだ金田さんですが、お話を聞いていて感じたのは、「職業」が変わっただけなのかもしれない、ということでした。
音楽も、写真も。金田さん自身が主役になることはありません。演奏では誰かのステージを支え、写真では誰かの想いを写す。企業広告も。商品撮影も。家族写真も。その一枚の先には、必ず誰かの人生があります。
だからこそ、ジャンルを限定することなく、一つひとつの仕事に誠実に向き合ってきたのでしょう。そして、その先に見据えているのは、一年に一度でも帰ってきてもらえる写真館。写真を撮る場所ではなく、人との縁が続いていく場所をつくりたい。その夢は、これまで積み重ねてきた仕事の延長線上にありました。
ステージは変わっても、主役は、いつもレンズの向こう側にいる人。そんな金田さんらしい生き方が、この先もきっと多くの人の人生を写し続けていくのだと思いました。
Profile
金田 吉弘
studio kdot 代表 / フォトグラファー
プロミュージシャンを経て写真の世界へ。企業広告・商品撮影・ブライダル・タレント撮影など幅広いジャンルを手がける。ジャンルを問わず、どんな仕事にも同じ熱量で向き合うスタンスで、多くの企業・制作会社から信頼を集める。大阪を拠点に活動。