靴職人 / 姫路

自分らしく生きていたら、
靴をつくる人になっていた。

取材・文・写真 / 38knot 真田  |  2026.09.12
石塚 昌美 イシヅカ靴店 靴職人
石塚昌美さん メインビジュアル
子どもの頃から、何かをつくることが好きだった石塚昌美さん。
でも、高校を卒業する頃になっても、将来なりたいものは見つからない。

「なりたいものがなかったから、大学に行った感じです」

その後、教員免許を取得していたことから、最初は「食べるため」に英語教師に。
紆余曲折を経て、現在は姫路で「イシヅカ靴店」を営んでいます。

一見すると、まったく違う二つの仕事。
その間には、石塚さんが「自分らしい生き方」を探しながら歩んできた、
いくつもの寄り道がありました。

思いがけず始まった、教師という仕事。

大学では英語を専攻し、教員免許を取得した石塚さん。けれど、最初から教師を目指していたわけではありません。卒業後は「もっと英語を話せるようになりたい」とニュージーランドへ。帰国後、とりあえず一年のつもりで始めた臨時講師が、そのまま正規の中学校教員へとつながりました。

「一生これをやろうと思って、先生になったわけじゃなかったんです」

教師の仕事にやりがいはありました。それでも、このまま続けていいのかという思いは、少しずつ大きくなっていきます。途中、青年海外協力隊としてインドネシアで2年間、環境教育にも携わりました。日本を離れ、自分のこれからを考えたことで、帰国後、「教師は10年で辞めよう」と決めます。ただ、その時点では、次に何をするかはまだ決まっていなかったと言います。

革細工から、靴づくりへ。

そんな教師生活の中で、息抜きとして始めたのが革細工でした。

「趣味を持たないと、学校だけになってしまうと思って」

財布から始まり、やがて鞄までつくるように。誰とも話さず、黙々と手を動かす時間に、どんどん夢中になっていきました。そして次に見つけたのが、神戸にある靴づくりの教室です。教師を続けながら約2年間通い、一足の靴を自分でつくる技術を身につけました。

その後、心に決めた通り教師を退職し、靴の本場、イタリア・フィレンツェへ。

「もっと靴づくりを学びたかった。じゃあ、本場で勉強しようと思って」

すでに日本で靴づくりを学んでいたからこそ、イタリアではその違いも見えてきました。使う道具も、革の扱い方も、つくり方も違う。この道65年、80代の靴職人であるマエストロから、改めて一から靴づくりを学びました。日本とイタリア、二つの靴づくりを知った経験が、今の石塚さんのものづくりにつながっています。

石塚昌美さんの工房

大切に保管されていた修了証書。日本とイタリアの靴づくり、その両方を身に着けている証です。

靴屋だけど、靴づくりだけが仕事じゃない。

イタリアから帰国後、石塚さんは自分の店を構えることに。実家にもほど近い姫路市網干で見つけた古民家を、半年ほどかけてDIYで改修しました。姫路は全国有数の革の産地。靴づくりをする石塚さんにとっても、うってつけの場所でした。そして2018年、「イシヅカ靴店」をオープン。

ただ、店名は「靴店」でも、仕事は靴づくりだけではありません。

「靴はつくれるから屋号は靴屋にしたけれど、靴以外のこともしたいなと」

店には、イタリア留学中に親しんだようなカフェも併設。現在はイベントへの出店を仕事の中心に、革小物を販売しながら、オーダー靴の注文も受けています。

「靴はオーダーが入ればラッキーくらいの感覚です」

一つの仕事に縛られず、自分に合ったペースで仕事を組み合わせていく。それが、石塚さんの選んだ「靴屋」の形です。

石塚昌美さんの靴づくり
イシヅカ靴店の革小物

日本とイタリアの工具の違いは一目瞭然。革漉き機やミシンもかなりの年季が入ったものばかり。

一人ひとりと話すことから、靴づくりは始まる。

石塚さんが靴づくりで大切にしているのは、お客さんと直接会って話すことです。オーダーを受ける際は、基本的に工房まで足を運んでもらいます。どんな靴が欲しいのか。どんな色やデザインが好きなのか。そして、普段履いている靴で困っていることはないか。過去につくった靴やサンプルを見ながら話を聞き、革を一緒に選び、足を採寸する。そこから一足の靴づくりが始まります。

「靴はやっぱりフィット感ですね。かっこよくて、その人が好きなデザインであることも大切ですが、履いて痛くないことが何より大事じゃないですか」

左右の足の違いや外反母趾、過去の怪我なども確認しながら、当たりそうな部分は革を柔らかくしたり、少し膨らませたり。完成後も必要に応じて調整します。だから、靴のオーダーはネットだけでは完結させません。石塚さんにとって靴づくりは、どこまでも「対面商売」なのです。

石塚昌美さんと革

細かな部分にこだわりが光る。数えきれないほどの工程を経てようやく一足が完成します。

自分に合う生き方も、自分でつくる。

教師、青年海外協力隊、革細工、靴づくり、イタリア、そして姫路市網干での店づくり。第三者から見れば、ずいぶん遠回りしたように見えるかもしれません。でも、それは石塚さんが、その時々で「自分には何が合っているのか」を確かめながら、次の道を選んできた結果なのでしょう。

今も、店だけにこだわらずイベントへ出る。靴だけにこだわらず革小物もつくる。そして、注文がなければ、自分がつくりたい靴をつくる。

そんな石塚さんが、これから力を入れたいと話すのが、靴のコンテストへの挑戦です。日々のオーダーとは違い、自分のアイデアや技術を存分に注ぎ込んだ一足で、結果を残したい。そのための靴づくりにも、少しずつ取り組んでいます。

誰かが決めた「こうあるべき」ではなく、自分に合う方へ。

それが、石塚さんらしい生き方なのかもしれません。

Editor's Note

取材で印象的だったのは、石塚さんがいつも「自分にとって心地いいか」を大切にしながら、道を選んできたことでした。教師を辞めることも、靴づくりを学ぶことも、そして古民家をDIYして、自分の居場所までつくってしまうことも。誰かが決めた正解ではなく、自分らしい生き方を自分でつくっていく。そんな穏やかで芯のある人柄が、靴や革小物にも宿っているように感じました。姫路の革や播州織など、地元の素材も大切にする石塚さんが、これからどんなものを生み出していくのか楽しみです。

石塚昌美

Profile

石塚 昌美

イシヅカ靴店 靴職人

大学で英語を専攻し、ニュージーランド留学を経て中学校英語教師に。青年海外協力隊としてインドネシアでの活動を経験したのち、革細工との出会いをきっかけに靴づくりへ。神戸の靴づくり教室に通った後、イタリア・フィレンツェで80代の靴職人マエストロに師事。帰国後、姫路市網干の古民家を自ら改修して2018年に「イシヅカ靴店」を開店。靴のオーダー製作のほか、革小物の制作・販売やイベント出店など、自分らしいペースで仕事を組み合わせながら活動を続けている。

イシヅカ靴店

兵庫県姫路市網干区津市場 439-1

イシヅカ靴店

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